Jun Hashimoto
第二話 良い生地とは何か?
「このブランドは生地が良い」
ファッションの話をしていると、よく耳にする言葉です。
ただ、その“良い生地”とは、一体何を基準にしているのでしょうか。
価格が高いことなのか。有名な生地メーカーが作っていることなのか。海外の有名メゾンが使っていることなのか。
僕は、どれも絶対的な基準ではないと思っています。
バイヤー時代から現在まで、数え切れないほどの服や生地を見てきました。デザイナーになってからは、生地メーカーや商社、縫製工場の方々と話す機会も増え、生地の表面だけでなく、その背景にある情報まで知るようになりました。
すると、「有名ブランドが使っているから高級な生地だろう」と思われているものが、実際にはメーター数百円程度だった、ということもあります。
もちろん、価格が安いから悪いわけではありません。
数百円の生地でも、使い方が正しければ素晴らしい服になります。逆に、どれだけ高価な生地でも、作る服との相性が悪ければ、その魅力を十分に引き出すことはできません。
では、生地の価格が高ければ高いほど、良い生地なのでしょうか。
これも、必ずしもそうではありません。
例えば、海外のメゾンが日本の生地を使う場合があります。
日本で作られた生地をイタリアへ送り、送料や関税などを負担する。現地で縫製し、ブランドとしての利益を乗せ、完成した商品をもう一度日本へ送る。そこでも再び、輸送費や税金などのコストが発生します。
そうなると、日本で作られた生地を使っていたとしても、最終的な商品価格は大きく上がります。
場合によっては、生地本来の価格から考えると、倍以上の価値に換算されているように見えることもあります。
でも、その価格差は本当に生地の品質によるものなのでしょうか。
実際には、国をまたいで何度も移動するための費用や、ブランドを維持するためのコストが含まれています。
もちろん、海外で縫製することや、有名メゾンの価値を否定しているわけではありません。そこにしかない技術や表現もあります。
ただ、販売価格の高さと、生地そのものの良さを同じものとして考えるのは少し違うと思うのです。
僕が考える良い生地とは、その服に最も合っている生地です。
柔らかさを活かすなら、柔らかく落ち感のある素材。立体的なシルエットを作るなら、適度な張りを持つ素材。動きやすさが必要なら、伸縮性のある素材。長く着ることを考えるなら、耐久性や扱いやすさも重要です。
大切なのは、値段や知名度ではありません。作りたい服の目的と、生地の性格が合っているかどうかです。
どれだけ高価な生地でも、作る服に適していなければ良い生地とは言えません。反対に、手頃な価格の生地でも、その素材の特徴を理解し、最も適した形に落とし込むことができれば、完成度の高い服になります。
結局、服作りは適材適所です。
そして日本には、世界的に見ても非常に高い技術を持つ生地産地や縫製工場があります。
日本で作られた生地を日本国内で縫製すれば、余計な輸送費や関税を抑えることができます。素材と工場の距離も近くなり、細かな修正やコミュニケーションもしやすくなります。
無駄なコストをできるだけ減らし、その分を素材や縫製、着心地といった服そのものの価値に使う。
それが、価格と品質のバランスが最も取れたものづくりの一つだと僕は考えています。
良い生地とは、価格が高い生地でも、有名ブランドが採用した生地でもありません。その服の目的を理解し、魅力を最も引き出してくれる生地。
良い生地とは、高い生地ではない。その服に最も合う生地である。