Jun Hashimoto

第三話 天然繊維と化学繊維

「天然素材と化学繊維、どちらが好きですか?」

よく聞かれる質問です。

僕の答えは、とてもシンプルです。

基本的には天然繊維が好きです。

コットン、リネン、ウール、カシミヤ。天然繊維には独特の表情があります。

光の反射。シワの入り方。空気を含んだ膨らみ。着込んだときの風合い。

これらは数字では表せない魅力です。

服を見た瞬間に感じる「上質さ」は、実はこうした細かな表情の積み重ねから生まれています。

だから僕は、今でも天然繊維を基準にして服作りを考えています。

ただ、一方で最近の化学繊維は本当に素晴らしい。20年前とは比べものにならないほど進化しています。

実は、多くの化学繊維は天然繊維を目標に開発されています。

ウールのように見せたい。コットンのような風合いを出したい。リネンのような清涼感を作りたい。

つまり、化学繊維は天然繊維の代替素材として進化を続けてきました。だから年々、その距離が縮まっているのです。

さらに化学繊維には、天然繊維にはない武器があります。

ストレッチ性。防シワ性。軽量性。UVカット。速乾性。耐久性。

機能だけを見れば、天然繊維では実現できないこともたくさんあります。

だから僕も、化学繊維は積極的に使います。

でも、一つだけ絶対に譲れない基準があります。

“天然繊維に見えること”

僕は生地を見る時、最後に少し離れます。約1.5メートル。その距離から、生地全体を眺めます。

近くで触るだけでは分からないことが、この距離になると見えてくるからです。

光の反射。表面の艶。空気感。立体感。

もしその時、「あ、化学繊維だな」と感じる独特の光り方や表情が見えたら、その生地は選びません。

逆に、「どう見ても天然素材にしか見えない。」そう思えたら採用します。

もちろん、最近はストレッチ、防シワ、UVカットなど、便利な機能を持つ素材が数え切れないほどあります。

でも、機能が付いているから選ぶ、ということはほとんどありません。

服は道具でもありますが、それ以前に、人が見て、美しいと感じるものでもあります。

どれだけ便利でも、見た瞬間に化学繊維らしさが伝わってしまえば、僕にとっては少し違う。

だから、僕の生地選びはいつも天然繊維から始まります。

天然繊維を知り、その美しさを基準にする。その上で、化学繊維が持つ機能性を取り入れる。

つまり、化学繊維を選んでいるようで、実は天然繊維を基準に選んでいるのです。

化学繊維は天然繊維の敵ではありません。天然繊維を目指し、さらに天然繊維にはない価値を加えた、新しい素材です。

だからこそ、素材の性能だけを見るのではなく、服としてどう見えるかを最後まで見極める。それが、僕の素材選びです。

天然繊維を基準に考え、化学繊維の機能を活かす。その両方を満たした時、初めて“良い素材”になると僕は考えています。