Jun Hashimoto

第四十話 物は、語りかけてくる。

イタリアで仕事をしていた頃の話です。 ある日、MAURIZIOに突然言われました。 「ローマで展示会がある。行こう。」 何の展示会なのかも分からないまま、一緒に向かいました。 会場に着いて最初に思ったのは、 「よく分からない。」 展示されている作品は、どれも落書きのように見える。 正直、アートには思えませんでした。 それでも、一点一点見ながら歩いていると、不思議なことが起きました。 最初は何も感じなかった作品が、少しずつ気になり始める。 気付けば足が止まる。 もう一度見たくなる。 理由は分からない。 でも、確かに惹かれている。 最後には、 「この絵、欲しいかもしれない。」 そう思っていました。 展示会を出たところで、一枚のビラを手にしました。 そこに書かれていた名前が、

Basquiat

当時の僕は、その名前を聞いたことがある程度でした。 価値も知らない。 価格も知らない。 有名だから欲しいと思ったわけでもありません。 名前を知る前に、心が動いていた。 その時、初めて分かりました。 物には、それ自体が持つ力がある。 情報ではない。 ブランドでもない。 値段でもない。 本当に良いものは、説明される前に人の心を動かす。 その体験は、今でも僕の物作りの基準になっています。 だから僕は、服もそうありたいと思っています。 ブランド名を知らなくても。 誰が作ったか分からなくても。 袖を通した瞬間に何かを感じる。 理由は説明できなくても、なぜか気になってしまう。 そんな力を持った服を作りたい。 本当に良い物は、言葉より先に伝わる。 僕は今でも、そう信じています。