Jun Hashimoto

第三十五話 着心地は裏で決まる

カシミア100%。SUPER120’Sのウール。

世の中には、触り心地の良い素材がたくさんあります。

店頭で服を見る時、多くの人はまず表側の生地を触ります。柔らかい。滑らか。軽い。それだけで、良い服だと感じることもあります。

もちろん表地は大切です。服の印象を決める部分ですし、素材の良さが最も分かりやすく表れる場所でもあります。

でも、少し考えてみてください。

服を着た時、実際に身体に触れているのはどこでしょう。

ジャケットなら裏地。パンツならポケットの内側やウエスト部分。シャツなら襟の裏や縫い代。

表からはほとんど見えない場所です。

どれだけ高級な表地を使っていても、裏地が硬かったり、ポケットの素材が粗かったり、縫い代が肌に当たったりすると、その服の心地良さは一瞬で失われます。

外側は最高級なのに、内側に入った瞬間に現実へ戻される。それでは、本当に良い服とは言えないと思っています。

服は眺めるためだけの物ではありません。

触るためだけの物でもない。長い時間、身体の上に置いて使う物です。

だから僕は、表から見えない場所ほど大切にしたい。裏地の滑り。

ポケットに手を入れた時の感触。襟が首に触れた時の柔らかさ。袖を通した瞬間の抵抗のなさ。

着ている間に身体のどこかが気にならないか。そういう小さな感覚の積み重ねが、本当の着心地を作ります。見た瞬間に格好良い服はたくさんあります。

触った瞬間に気持ち良い素材もたくさんあります。でも僕が作りたいのは、それだけではありません。

袖を通した瞬間に気持ち良くて、何時間着ても疲れず、脱いだ時にもう一度着たいと思える服です。服の価値は、見える部分だけでは決まりません。むしろ、その服を本当に好きになる理由は、見えない部分にあるのかもしれません。

着心地は、裏で決まる。だから見えない場所にこそ一番良い素材と技術を使いたいと思っています。