Jun Hashimoto

第三十四話 素材には名前がある

「どんな素材ですか?」 服を作っていると、よく聞かれる質問です。

もちろん説明はします。 コットン100%。 ウール100%。 何番手の糸で、高密度に織られていて…。 でも、本当はそれだけでは何も伝わっていません。

例えばシャツ生地。 スペックだけ見れば、どれも「コットン100%」です。 でも実際は、一枚一枚まったく違います。

ハリがあるもの。 空気を含むもの。 乾いた表情のもの。 しっとりとしたもの。

光の当たり方まで違う。

人の表情が一人ひとり違うように、素材にもそれぞれ個性があります。 だから僕は、スペックだけで素材を選ぶことはありません。 最後は必ず、自分の手で触ります。

触った瞬間に、 「これだ。」 そう思える素材があります。 理由は説明できません。 数字にも表せません。

でも、その一瞬で心が動くんです。 そういう素材は、もう単なる材料ではありません。 僕にとっては、一つのブランドです。 いや、それ以上かもしれません。

一人の人格として向き合いたい存在です。 この素材は、どんな服になりたいんだろう。 どんな形なら、一番美しく見えるんだろう。 そんなことを考えながら、何度も対話します。 だからデザインは、僕が一方的に決めるものではありません。 素材と一緒に作っていくものです。

良い素材と出会えることは、人との出会いによく似ています。 簡単には巡り会えない。 だからこそ、出会えたら長く付き合いたい。

これから使っていく素材も、毎シーズン入れ替えるつもりはありません。 名前を与え、育て、何年も付き合っていきたい。 服には定番があります。 でも本当は、その前に定番になるべきなのは素材なのかもしれません。 僕は服を作っているようで、実はずっと素材との関係を育てているんだと思います。