Jun Hashimoto

第三十三話 ストーリーは真似できない

ブランドを始めると、いろいろな情報が入ってきます。

「今年はこの形が売れている。」 「○○がこの素材を大量に買ったらしい。」 「この色が流行る。」

そんな話は毎シーズンのように耳に入ります。 もちろん参考にはします。

でも、それをそのまま作ろうと思ったことはありません。

理由は簡単です。

それが売れているのには、そのブランドのストーリーがあるからです。

何年も積み重ねてきた世界観。 お客様との信頼。 デザイナーの考え方。

その流れの中にあるから、その服は売れている。 その一部分だけを切り取って真似をしても、自分の服にはなりません。

例えば、人気ブランドが使っている生地を手に入れたとしても、それだけで同じ価値にはならない。

同じ料理の材料を揃えても、同じ料理人にはなれないのと一緒です。

だから僕は、売れ筋を追いませんでした。 いや、正確には追えませんでした。 自分のストーリーじゃないからです。

だったら、自分のストーリーを積み重ねよう。 素材を探して。 工場へ行って。 試作を繰り返して。 一歩ずつ、自分らしい服を作っていく。

その積み重ねの先に、 もし売れ筋と呼ばれる物が生まれるなら、それは嬉しいことです。

でも順番は逆です。 売れ筋を作ろうとするのではなく、 自分が信じた物を作り続ける。

その結果として、お客様が選んでくれる。 僕は、その順番だけは今も変えたくありません。 流行は追いかけるものではなく、 自分の歩いてきた道の先に、あとから付いてくるものだと思っています。