Jun Hashimoto

第二十八話 違和感は残しておく

イタリアで仕事をしていた頃も本当にたくさんの素材を見ました。ヨーロッパ中から集まる生地はどれも魅力的で、毎日のように新しい発見がありました。その頃は、世界中の良い素材がイタリアに集まってくるような時代でした。当然、日本では見た事のない生地にもたくさん出会いました。

でも、見続けているうちに、一つ気付いた事がありました。綿のジャージ素材とデニムだけは、日本製が本当に良い。風合い。膨らみ。表情。どれを取っても、日本の技術は特別だと感じていました。

だから自然と、「この素材を使ったら面白い服が出来る。」そんな事ばかり考えていました。

ところが、CARPE DIEMではデニムを全く使いませんでした。MAURIZIOに理由を聞くと、「カジュアルすぎる。」答えはそれだけでした。

彼のブランドが目指していた世界観を考えれば、その判断はよく分かります。デニムを否定していたわけではありません。ブランドとして選ばなかっただけなんです。でも僕の中には、小さな違和感が残りました。

こんなに素晴らしい素材なのに。

素材そのものではなく、"デニム"というイメージだけで可能性を閉じてしまうのは、本当にもったいないんじゃないか。その気持ちは、帰国してからもずっと消えませんでした。だから自分のブランドを始めた時、デニムは積極的に使いました。いわゆるジーンズを作りたかった訳ではありません。

デニムという素材で、テーラードジャケットを作ったらどうなるだろう。デニムでコートを作ったら。デニムをスラックスのように仕立てたら。そんな事ばかり考えていました。僕にとってデニムは、カジュアルな素材ではありません。

ただ一つの素材です。

そして良い素材には、もっといろいろな可能性があると思っています。今振り返ると、MAURIZIOから教わった事はたくさんあります。素材を見る目。世界観を貫く強さ。完成形を想像する力。でも、それと同じくらい大切だったのは、自分の中に残った小さな違和感でした。

人は尊敬する人から多くを学びます。でも、自分らしさは、実はその"違和感"の中に隠れているのかもしれません。だから僕は、何かに違和感を覚えた時、それをすぐに否定しないようにしています。

その違和感が、何年か後の自分の物作りにつながる事があるからです。