Jun Hashimoto
第二十九話 自分で証明する
CARPE DIEMでは「洗えるレザー」という革製品を作っていました。 革自体にウォッシャブル加工が施されていて、水で洗っても大きく縮まない特殊な素材です。
当時はそれだけでも十分珍しい物でした。 でも、本当に驚いたのはそこではありません。
MAURIZIOは完成した革製品を、実際に自分で洗っていたんです。 洗って。 乾かして。 最後に専用の袋へ入れて完成。 それが製品になるまでの工程でした。 最初は意味が分かりませんでした。 素材メーカーが「洗えます」と言っているんだから、そのまま製品にすればいい。 普通ならそう考えます。
でも彼は違いました。 本当に洗ってみる。 その上で、お客さんの手元へ届ける。 その一手間を絶対に省きませんでした。
今思えば、あれは素材を信じていたというより、自分で確かめていたんだと思います。
ファッション業界では、洗濯表示を見ると分かるように、「自己責任」で済ませる事が少なくありません。 なるべく洗わないでください。 乾燥機は使わないでください。 アイロンは低温で。 禁止事項がたくさん並びます。
もちろん理由はあります。 でも、それはメーカーがリスクを減らすためでもあります。 MAURIZIOは、その逆でした。 自分から一番リスクのある事をやる。 洗って問題がない状態まで、自分の手で仕上げる。 だからこそ、「洗えるレザー」と胸を張って言えたんだと思います。
実は、そのレザーシャツを僕自身も買って着ていました。 気に入りすぎて、本当によく着ました。 そのうち革が少し伸びてきたんです。 高価な物だったので、どうしようか悩みました。 ある日、MAURIZIOに相談すると、一言だけ返ってきました。
「洗えばいい。」
あまりにも普通に言うので、少し驚きました。 半信半疑で、本当に洗ってみました。 すると少し伸びていた革が、ちょうど良いサイズ感に戻ったんです。 あの時は感動しました。
商品説明ではありませんでした。 広告でもありませんでした。
自分で体験したからこそ、本当に信じられたんです。 今でも、あの経験は物作りの基準になっています。 良い素材を使う事は大切です。 でも、それだけでは足りません。
自分で試す。 自分で使う。 自分で責任を持つ。
そこまでやって初めて、お客さんに勧められる。 僕は今でも、そう思っています。