Jun Hashimoto

第二十七話 その先を見る

25年くらい前の話です。 イタリアでCARPE DIEMというブランドで仕事をしていました。 ある日、デザイナーのMAURIZIOがイギリスから生地を持ち帰ってきました。 期待して広げてみると、正直がっかりしました。 ガサガサで硬く、とても良い生地には見えなかったんです。 「こんなのを使うのかな。」 そんな事を思っていました。 数日後、ショールームへ行くと、とても雰囲気の良い生地が置いてありました。 見た事のない表情でした。 「この生地すごく良いですね。」 そう言うと、MAURIZIOは笑いながら言いました。 「あれだよ。」 最初は意味が分かりませんでした。 よく聞くと、イギリスから持ち帰ったあの生地だったんです。 まだ整理加工をする前の、未完成の状態。 普通なら工場で最後の仕上げをする工程を、彼は熱湯で洗い、自分の感覚だけで縮ませていました。 その結果、どこにも無い表情の生地が出来上がっていました。 あの時、本当に驚きました。 僕が見ていたのは、目の前の生地でした。 でも彼は、その先を見ていました。 完成した姿が、最初から見えていたんだと思います。 デザインとは、形を考える事だと思っていました。 でも違いました。 可能性を見る事なんだと教えられました。 それ以来、僕も生地を見る時は、その先を考えるようになりました。 この生地は服になったらどうなるんだろう。 洗ったらどう変わるんだろう。 何年着たらどんな表情になるんだろう。 目の前にある物だけで判断しない。 その先を見る。 今でも素材探しが好きなのは、その瞬間があるからなのかもしれません。 良いデザイナーとは、絵が上手い人でも、流行を知っている人でもなく、まだ誰も見えていない未来を少しだけ先に見られる人。 あの日のMAURIZIOを見て、僕はそんなデザイナーになりたいと思いました。