Jun Hashimoto

第二十六話 引き算の難しさ

デザインの仕事をしていると、「何を足すか」より「何を引くか」の方が難しいと感じます。 ポケットを付ける。 ステッチを増やす。 ボタンを変える。 装飾を加える。 足す事はいくらでも出来ます。 でも一つ足す度に、本当に必要だったのかと考えます。 デザインを始めた頃は、沢山考えた分だけ沢山入れたくなりました。 この仕様も面白い。 このディテールも格好良い。 せっかく思い付いたんだから入れよう。 そんな服も沢山作ってきました。 でも不思議なもので、時間が経って見返すと、最初に目に付くのは足した部分なんです。 「あれは要らなかったな。」 そう思う事が少なくありません。 逆に、今でも好きな服は驚くほど静かです。 特別な事をしていない。 でも何度見ても飽きない。 何度着ても違和感がない。 そういう服が最後まで残っています。 だから最近は、一つ何かを加えたら、一つ何かを引けないか考えます。 本当に必要なのか。 無くても成立するなら、その方が良いんじゃないか。 そんな事を繰り返しています。 引き算は地味です。 完成した時も、何を苦労したのかは伝わりません。 むしろ「普通だね」と思われる事もあります。 でも、その普通を作る事が一番難しい。 自然に見えるバランスほど、多くの選択と迷いの上に成り立っています。 昔はデザインとは、何か新しい物を生み出す事だと思っていました。 今は少し違います。 余計な物を取り除いて、本当に残すべき物だけを見つける事。 それもデザインなんだと思っています。 そして不思議な事に、残った物は昔から好きだった物ばかりです。 素材。 着心地。 バランス。 結局、自分はずっと同じ物を見てきたんだなと思います。 だから今でも服を作る時は、新しい物を探すより、本当に必要な物だけを残す事を大切にしています。 その方が長く付き合える服になると信じているからです。