Jun Hashimoto

# 第二十五話 本物は語らない

「本物って何ですか?」

そう聞かれる事があります。

難しい質問です。

僕にも明確な答えはありません。

でも、一つだけ思う事があります。

本物は、自分から語らない。

以前書いた牛革のランドセルもそうでした。

「私は本物です。」

そんな事はもちろん言いません。

ただ静かにそこにあるだけでした。

でも僕は子供ながらに惹かれました。

理由は今でも説明出来ません。

革の匂いだったのか。

傷だったのか。

何十年も使われた時間だったのか。

全部だったのかもしれません。

服も同じです。

良い服ほど、あまり大きな声で主張しません。

派手なデザインでもない。

目立つ色でもない。

それでも袖を通した瞬間に何かが違う。

言葉では説明しにくいけれど、確かに感じるものがあります。

逆に、説明が必要な物もあります。

何が凄いのか。

どう作られているのか。

どれだけ珍しいのか。

もちろん、それを知る事も楽しい。

でも、本当に好きになる物は、説明を聞く前に好きになっている気がします。

僕は昔から、そういう物に惹かれてきました。

だから服を作る時も、説明がなくても伝わる物を目指しています。

素材を触れば分かる。

袖を通せば分かる。

何年か着ればもっと分かる。

そんな服です。

もちろん、すぐには伝わらないかもしれません。

派手な服の方が目を引く事もあります。

でも、それでいいと思っています。

時間を掛けて好きになってもらえる物の方が、長く付き合える気がするからです。

本物とは何か。

その答えは今でも分かりません。

でも、本物はきっと、自分からは語らない。

だからこそ、人は静かに惹かれてしまうのかもしれません。