Jun Hashimoto
# 第二十四話 本物に気づいた日
子供の頃の話です。
小学校に入学する時、新しいランドセルを買ってもらいました。
軽くて丈夫で、当時としては良いランドセルだったと思います。
もちろん何も疑わず使っていました。
10歳くらいの頃だったと思います。
親戚の家へ遊びに行った時、物置の片隅で一つの古いランドセルを見つけました。
色は褪せ、傷もあり、所々擦り切れていました。
今まで見てきたランドセルとはまるで違う雰囲気でした。
「これ誰の?」
そう聞くと、15歳年上の従兄弟が小学生の頃に使っていたランドセルだと教えてくれました。
しかも牛革。
その瞬間、なぜか目が離せませんでした。
新品だった僕のランドセルより、圧倒的に格好良く見えたんです。
傷もある。
シワもある。
色も均一じゃない。
でも全部が魅力に見えました。
お願いして譲ってもらい、翌日から学校へ背負って行きました。
当然、友達には不思議そうな顔をされます。
「なんでそんな古いランドセル使ってるの?」
そう言われた事もありました。
でも僕は全く気になりませんでした。
むしろ心の中では少し誇らしかったんです。
「みんなとは違う。本物を持っている。」
そんな気持ちでした。
今思えば、生意気な子供です。
でも、その時感じた感覚は今でも覚えています。
新品だから価値がある訳じゃない。
綺麗だから魅力的な訳でもない。
時間を重ねた物だけが持つ美しさがある。
その事を、10歳の僕はランドセルから教わりました。
考えてみると、僕が今でも素材に惹かれる理由。
革の表情が好きな理由。
経年変化を美しいと思う理由。
流行より長く付き合える物を作りたいと思う理由。
全部あの日から始まっている気がします。
人は大人になって価値観が出来ると思っていました。
でも本当は違うのかもしれません。
価値観は子供の頃に出会った一つの景色や、一つの物によって、静かに作られていく。
僕にとって、それはあの古い牛革のランドセルでした。