Jun Hashimoto
# 第二十話 服は何のためにあるのか
今でも忘れられない出来事があります。
20代の頃、パリのセレクトショップ「L'Eclaireur」に入社する面接を受けた時の事です。
オーナー兼バイヤーだったフランス人に、一つだけ質問されました。
「あなたにとってファッションとは何?」
今なら色々考えて答えてしまうと思います。
でもその時は考える時間なんてありませんでした。
咄嗟に出た言葉が、
"My own culture."
自分でも不思議なくらい自然に口から出ました。
その時は英語で答えただけで、自分でも深く意味を考えていた訳ではありません。
でもあれから20年以上経った今でも、その言葉だけはずっと自分の中に残っています。
最近になって、ようやく分かってきた気がします。
僕にとってファッションは、お洒落をするための物ではなかった。
流行を追うための物でもなかった。
自分の文化、そのものだったんです。
文化と言うと少し大げさに聞こえるかもしれません。
でも毎日着る服。
好きな素材。
好きな色。
好きな形。
何を心地良いと感じるか。
何を美しいと思うか。
それは誰かに教えられる物ではなく、長い時間を掛けて少しずつ作られていくものです。
食べ物の好みがあるように。
音楽の好みがあるように。
服にもその人だけの文化があります。
だから僕は服を作る時、自分の文化を押し付けたいとは思いません。
着る人が、その人らしくいられる服を作りたい。
以前、人が主役だと書きました。
服は時間と共に完成するとも書きました。
買う理由より着る理由が大切だとも思っています。
全部、あの時の一言につながっている気がします。
服は自分を飾るための物ではありません。
自分を大きく見せるための物でもありません。
自分が自分らしくいるための物です。
だから流行が変わっても、自分の好きな物は大きく変わらない。
年齢を重ねても、好きな素材や着心地は少しずつ深くなるだけです。
ファッションは、自分を表現する物だと言う人がいます。
もちろんそれも間違いではありません。
でも今の僕なら、少し違う言い方をします。
ファッションは、表現する物ではなく、積み重ねる物。
毎日の選択。
毎日の価値観。
毎日の生活。
その積み重ねが、その人だけの文化になっていく。
20年以上前、何気なく答えた「My own culture」という一言は、結局今でも僕の服作りの原点なのかもしれません。