Jun Hashimoto
# 第十二話 足さないというデザイン
デザイナーは常に新しい物を求められます。
新しいデザイン。
新しいディテール。
新しいシルエット。
新しい価値を生み出そうとすると、どうしても何かを足したくなる。
でも、その足し算を続けていくと、服は少しずつ違う方向へ向かってしまいます。
もちろん新しいデザインも大事です。
でも僕は、それ以上に新しい価値観を作る事の方が大事だと思っています。
その為に必要なのが、足さないというデザインです。
デザインを始めた頃は、僕も色々な事をやっていました。
切り替えを入れたり、ステッチを増やしたり、ポケットを付けたり。
でも経験を重ねるうちに、一つ気付いた事があります。
足した物より、引いた物の方が格好良く見える事が多い。
もちろん全部が全部シンプルなら良いと言う話ではありません。
装飾が必要な服もあります。
でも、本当に良い素材と出会った時は話が変わります。
素材そのものに魅力があるなら、余計なデザインはいらない。
むしろ足してしまう事で、その素材の良さを消してしまう事もあります。
以前から書いているように、僕は素材が主役だと思っています。
だからデザインは、その魅力を邪魔しない存在でありたい。
デザインを見せる為の服ではなく、素材を引き立てる為のデザイン。
その考え方になってから、服はどんどんシンプルになっていきました。
でも僕の中では、手を抜いている感覚は全くありません。
むしろ逆です。
一つの線を消す。
一つのステッチを無くす。
ポケットを一つ減らす。
そうやって削っていく方が、何倍も勇気がいります。
デザインとは足す事ではなく、残す物を決める仕事なのかもしれません。
だから今日も僕は、新しいデザインを考える前に「これは本当に必要かな?」と自分に問い掛けています。
その問いを繰り返した先に、新しいデザインではなく、新しい価値観が生まれると信じています。
第十三話 デザインしないというデザイン
最近思う事があります。
服って、デザインすればするほど格好良くなる訳ではない。
むしろ逆かもしれません。
20年以上服を作ってきて、一番難しいと思うのは「何を加えるか」ではなく「何を加えないか」。
デザインとは何かを足す事ではなく、その服が一番良く見える状態を作る事。
僕はそう考えています。
だからデザインをしていると言うより、整えている感覚の方が近い。
素材を見て、シルエットを決めて、バランスを整える。
必要なら足す。
必要なければ足さない。
その結果、何もしていないように見える服が出来る事があります。
でも実は、その「何もしていない」が一番難しい。
一つボタンの位置が違うだけで印象は変わる。
5mm丈が違うだけで見え方は変わる。
ポケットを一つ無くすだけで空気感まで変わる。
デザインは足した分だけ良くなる仕事ではありません。
むしろ削る勇気の方が必要です。
以前も書きましたが、僕は服より人が目立ってほしいと思っています。
だから服は出来るだけ静かで良い。
でも静かな服ほど、誤魔化しが効きません。
素材も、シルエットも、縫製も、全部が見えてしまう。
だからシンプルな服ほど難しい。
僕は昔から、デザインしているように見えない服が好きです。
でも本当は、その服こそ一番デザインされている。
最近はそんな風に思っています。