Jun Hashimoto

# 第八話 売れている生地を使わない理由

「この生地、今すごく売れていますよ」

生地屋さんへ行くと、よくこんな言葉を聞きます。

もちろん気になります。

売れていると言う事は、それだけ多くのブランドが採用していると言う事だし、価格のバランスが良かったり、使いやすかったり、トレンドに合っていたり、売れるにはちゃんと理由があります。

だから売れている生地が悪いと言う話ではありません。

むしろ良い生地だから売れていると言う事が事実。

しかし僕は、その言葉を聞いた瞬間に少し立ち止まります。

「売れていると言う理由だけでこの生地を使うべきなのだろうか?」

もし100ブランドが同じ生地を選んだら、100通りの服は作れます。

パターンも違うし、デザインも違う。

でも素材から伝わる空気感は、どこか似てくる気がしています。

僕は服の個性ってデザインだけで作る物ではなく、素材が持っている雰囲気も、その服の個性になると思っています。

だからこそ他のブランドがあまり使っていない生地にも自然と目が行くし、誰も見向きもしない生地の中に「何でこれ使われていないんだろう?」と思う素材を見付けると嬉しくなります。

もちろん失敗もあります。

「これは面白い」と思って選んだのに、服にしてみたら全然良くなかった。

そんな事も何度も経験してきました。

でもその失敗があるから、また違う生地を探したくなるし、その繰り返しが自分の引き出しを増やしてくれるんだと思っています。

以前も書きましたが、僕は毎シーズン多くの生地を見ます。

その理由もここにあります。

売れている生地を探している訳ではありません。

まだ誰も気付いていない魅力を持った生地に出会いたい。

その為に見続けています。

もちろん結果的に売れている生地を使う事もあります。

でもそれは「売れているから」ではなく、今作りたい服に一番合っていたから。

理由はそれだけです。

流行っているから使う。

売れているから使う。

僕はその順番では服を作りたくありません。

まず素材を見る。

その素材の魅力をどう活かせるかを考える。

結果として、それが売れている生地だったらそれで良いし、誰も使っていない生地だったとしても、その服に一番合うなら迷わず使います。

僕にとって生地選びは人気投票ではありません。

売れている生地を探すのではなく、売れる服になる生地を探す。

それが僕の仕事だと思っています。