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素材哲学で変わる服選びとものづくり
素材哲学とは、一言でいえば「どんな素材を、なぜ選ぶのか」を軸にしたものづくりの考え方です。流行やブランド名ではなく、素材そのものの物語に耳を澄ませる姿勢とも言えます。
ファッションの世界では、デザインやシルエットばかりが注目されがちですが、実際の着心地や耐久性、手入れのしやすさを左右するのは素材です。にもかかわらず、タグに書かれた混率や機能性コピーだけで判断してしまう人も多いのではないでしょうか。
この記事では、junhashimotoの事例を中心に、素材哲学がどのように服作りと日々の服選びを変えるのかを解説します。具体的な素材開発のストーリーや、料理や建築に通じる考え方、今日から使えるチェックポイントまで、実践的な視点で掘り下げていきます。
素材哲学とは何か:タグの裏側を見る視点
スペックではなく「時間軸」で素材を選ぶ
素材哲学の核心は、スペックより時間軸を優先して素材を選ぶ姿勢です。糸番手や混率の数字は重要ですが、それ以上に「3年後、100回洗った後にどうなっているか」を想像することが本質になります。短期的な風合いだけを追うと、すぐヨレる服を量産してしまいます。
junhashimotoのTシャツ開発では、過去に「ナントカ番手だから大丈夫」という説明だけを信じて失敗を重ねました。そこで採用したのが、専門施設で100回洗濯した生地サンプルを提示してくる生地屋の素材です。数字ではなく、実際に時間をかけて検証された結果を基準にする。これこそが素材哲学の実践と言えます。
- 数字ではなく、経年変化を基準に素材を評価する
- 短期的な見た目より、3年後の状態を想像して選ぶ
- 試験・検証のプロセスを重視し、生地屋の姿勢も見る
素材の「物語」とブランドの姿勢
素材哲学では、スペックと同じくらい素材に宿るストーリーを重んじます。たとえばEDWINの“JERSEYS”は、圧倒的な伸縮性を持つ画期的な素材ですが、その物語はEDWINが積み上げてきた技術と歴史に紐づいています。
LEVI’SやLEEとのコラボを装って売りやすさを狙うのではなく、「ダサい」と言われがちなEDWIN名義のままコラボする。これは海外ブランド信仰に流されず、素材そのものと正面から向き合う選択です。どのロゴを付けるかより、どんな素材をどう生かすかを優先する姿勢が、ブランドの信頼につながっていきます。
- 素材には企業や職人の歴史が刻まれている
- 安易なブランド志向より素材の物語を尊重する
- ロゴより素材で語れるブランドは長く支持される
素材哲学と実例①:Tシャツとデニムに見る「耐久美」
100回洗えるTシャツに宿る価値観
経験的に言えば、本当に良いTシャツは3年着てもくたびれません。junhashimotoの101シリーズは、100回洗ってもヨレないことを専門機関で検証し、その洗濯済みサンプルを下げ札として実物に付けています。買う前から「時間を通過した姿」を触れる設計です。
ここには「売り上げより信頼を優先する」という素材哲学が表れています。100回持つTシャツは買い替えサイクルを遅らせ、短期的な売上にはマイナスです。それでもあえてやるのは、長く着てもらえる素材でしか、自分たちの美意識を表現できないと考えるからです。
- 100回洗濯サンプルをタグに付けて見せる設計
- 短期売上より、長期的な信頼と愛用を重視
- 「3年持つ前提」でTシャツを企画する発想
ヘビーオンスデニムと「育てる楽しみ」
素材哲学は、デニム選びにもはっきり現れます。ストレッチデニム全盛の中で、あえて伸びない13オンスのカイハラデニムを選んだ理由は、色落ちのコントラストと経年変化を最大限引き出したかったからです。
ノンストレッチ・ヘビーオンスは、パンツ素材としては扱いづらい部類です。しかし「イージータックパンツ」というパターンと組み合わせることで、履きやすさと育てがいを両立させました。ここでも、着用初日よりも1年後の表情をゴールに据えるのが素材哲学の特徴です。
- ヘビーオンスは色落ちの表情を最大化できる
- 欠点(硬さ)をパターン設計で補完する
- 買った瞬間より、育った後を前提に企画する
素材哲学と実例②:機能素材を料理する発想
カモジャージに見る「素材を生かす料理」
機能素材は、扱い方を誤ると一気に安っぽく見えます。シャドーカモフラージュのカモジャージは、異常な伸縮性を持つスポーティーなポリエステル素材の弱点である光沢を、極薄のエンボス加工で抑え込んだ事例です。
技術者は「せっかく加工するなら分かりやすく」と濃い柄を出したがりますが、それでは一気に“お兄系”になってしまう。何度も試験を重ね、パッと見わからない薄さまで落とし込み、「仕事にも着ていけるカモ」に着地させました。料理で言えば、素材の旨味を壊さないギリギリの火加減を探ったようなアプローチです。
- 機能素材の弱点(光沢)を加工で抑える
- 加工は「やりました感」より仕上がりの品を優先
- 料理の火加減のように、最適な加工量を探る
シャカシャカスーツとMATT TECHの思想
ナイロン系スーツは、一歩間違えると安っぽい“シャカシャカ感”が前面に出ます。そこで選ばれたのが、光沢を抑えたポリエステル素材MATT TECHです。狙いは「見た目はウール寄り、機能はスポーツウェア」の中間点。
3DカットジャケットにMATT TECHを載せることで、ストレッチ性・防シワ・イージーケアを備えながら、オフィスでも違和感なく着られるスーツが完成しました。ここでもポイントは、いかに天然素材“風”に見せるか。素材哲学では、機能を誇示するより「実は化繊」と気づかれないくらいのバランスを良しとします。
- 見た目はウール、中身は高機能を狙う素材選び
- 3Dカットと組み合わせて快適性を最大化
- 機能を“見せつけない”ことも上質さの一部
素材哲学と実例③:レザーと金属に宿るクラフト精神
和製ウォッシャブルレザーと「後追いをしない」
レザー分野で象徴的なのが、日本製ウォッシャブルレザーの開発です。元ネタとなるCARPE DIEMの革をそのまま仕入れることもできた中で、あえてMADE IN JAPANでゼロから再構築する道を選びました。
仕上がったレザーは、厚みのある牛革にオイルと手作業のシワ加工を施した独自の表情。ここには「有名ブランドの素材を後追いするより、自分たちの素材で戦う」という素材哲学が貫かれています。インナーライダースとしてのスタイリング提案も含めて、一つのジャンルそのものを創出した好例です。
- 既存の名素材を買うだけでは価値は生まれない
- 日本の技術で独自のウォッシャブルレザーを開発
- 形だけでなく、素材からジャンルを作りに行く
ジュラルミン・ボタンに見る唯一無二志向
素材哲学は、ボタンのようなパーツにも及びます。ジュラルミン・ボタンは、航空機にも使われる超々ジュラルミンを削り出しで成形し、一つひとつ研磨した極めて手間のかかるパーツです。
通常の量産ロジックでは割に合わない価格とロットにもかかわらず採用したのは、「不況でも所有欲を満たす物は売れる」「困っている研磨職人と一緒に仕事がしたい」という信念から。結果として、軽さと輝きで他に代えがたいアイコンとなり、大手パーツメーカーが真似を試みても再現できないレベルに達しました。
- 超々ジュラルミンを削り出しでボタン化
- 職人支援と所有欲の両立を狙った素材選択
- 大手でも再現困難なレベルで唯一無二を実現
素材哲学を日常に活かす:賢い服選びのチェックポイント
買う前に確認したい3つの質問
素材哲学は、一般の服選びにも応用できます。タグだけで判断せず、買う前に自分に3つの質問を投げかけてみてください。それだけで失敗はかなり減ります。
第一に「これを週何回、何年着たいか」。第二に「3年後、この素材はどう変化しているか」。第三に「ブランドはその素材についてどこまで説明しているか」です。洗濯テストや経年変化の写真を見せてくれるブランドは、素材哲学を持っている可能性が高いと言えるでしょう。
- 着用頻度と期間を先にイメージする
- 経年変化を想像し、劣化か味かを見極める
- ブランドの素材説明の深さをチェックする
素材哲学的クローゼットの作り方
実践的には、「買い足す前に、今持っている服の素材を観察する」のが一歩目です。よく着るのにヨレない服と、すぐダメになった服を並べて触り比べ、タグの表示と結びつけてみてください。これだけでも、自分なりの素材の目利きが育ちます。
次に、ワードローブ全体を「すぐ変化してほしい素材」と「長く変化してほしくない素材」に分ける発想も有効です。デニムやレザーは育てる、Tシャツやシャツは3年以上もつ前提で選ぶ。そうした基準を持つことで、買い物の軸がブランド名から素材哲学へと自然に移っていきます。
- 手持ち服の成功・失敗を素材から振り返る
- 育てたい素材と長持ちさせたい素材を分ける
- ブランドより素材でクローゼットの軸を作る
まとめ
素材哲学とは、数字やトレンドではなく「時間」と「物語」を基準に素材を選び、生かす考え方です。Tシャツやデニム、機能素材、レザー、ボタンに至るまで、その視点で企画された服は、着る人の生活の質を静かに底上げしてくれます。
要点
- スペックより「3年後の姿」で素材を判断する
- 素材の物語とブランドの姿勢が信頼を左右する
- 機能素材は“やりすぎない加工”で上品さを保つ
- レザーや金属にもオリジナルの素材哲学を宿らせる
- 日常の服選びでも素材哲学的なチェックを取り入れる
次に服を手に取るときは、タグの数字だけでなく、生地に触れながら「この素材は自分の時間をどう豊かにしてくれるか」を想像してみてください。その問いこそが、あなた自身の素材哲学の出発点になります。
よくある質問
Q1. 素材哲学はデザイナーだけに必要な考え方ですか?
いいえ、むしろ一般の消費者こそ役立ちます。素材の時間軸や物語を意識して選ぶことで、失敗買いが減り、一着あたりの満足度が大きく高まります。
Q2. タグの表示だけで素材の良し悪しは判断できますか?
混率や機能性表示はヒントにはなりますが、それだけでは不十分です。実際に触ってみること、ブランドが経年変化やテスト結果をどこまで開示しているかも合わせて見ることが重要です。
Q3. ストレッチ素材は素材哲学的にNGなのでしょうか?
決してNGではありません。重要なのは、ストレッチを「楽だから」という理由だけで使うのではなく、シルエットや耐久性とのバランスを考えて選ぶことです。MATT TECHやカモジャージのように、欠点を補う工夫がある素材は好例です。
Q4. 安価な服でも素材哲学を意識できますか?
可能です。価格帯に関係なく、手持ちの服の中で長持ちしている素材を観察し、次の買い物の基準にすれば十分に素材哲学的な選択になります。頻度が高いアイテムほど、少し良い素材に投資するのも有効です。
Q5. オンライン購入のとき素材をどう見極めれば良いですか?
商品説明に素材の背景やテスト方法まで書かれているかを確認しましょう。拡大写真で表面感をチェックし、口コミで「何回洗っても大丈夫だった」といった時間軸の情報があるかを見るのも有効です。