新しい物質主義とは何かを素材から考える
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新しい物質主義とは何かを素材から考える

新しい物質主義とは、人間だけが世界を動かすという前提を見直し、素材・道具・身体・環境が互いに作用して現実をつくると考える立場です。スマートフォンや衣服を単なる「使う物」と見なさないことが、最初の入口になります。

この考え方は哲学にとどまりません。デジタル機器の資源採掘、服の着心地、都市インフラ、電子廃棄物などを、人間とモノの関係として読み直す実践的な視点です。モノの働きを認めても、責任がモノへ移るわけではありません。

第1回となる本記事では、物質存在論から素材の存在論、人工物哲学、技術と実在論までを一続きで解説します。さらに素材と身体性、素材倫理、素材と環境倫理を製品選択へつなげ、物質と精神を分けすぎない思考法を紹介します。

新しい物質主義はモノをどう捉え直すのか

手のひらのスマートフォンと金属部品を観察する様子

人間中心の説明だけでは足りない理由

新しい物質主義の答えは、社会を人間の意図だけで説明しないことです。人が計画しても、素材の硬さ、電池の劣化、道路の配置、通信の遅延が行為を方向づけます。モノは意思を持つ主体ではありませんが、結果を変える力を発揮します。

ここでいうエージェンシーは、モノに人格を与える言葉ではありません。ある状況で何が可能になり、何が妨げられるかを変える作用のことです。濡れた床、壊れた端末、伸びる生地は、身体の動きや判断を具体的に変えます。

重要なのは、人間の責任を曖昧にしないことです。企業、設計者、購入者、行政の選択が素材の働きと絡み合うため、責任もまた関係のなかで検討します。モノが影響するという理解は、責任逃れでなく設計責任を精密にするための出発点です。

  • モノのエージェンシーは「意図」ではなく「作用」を指す
  • 人間・技術・環境を切り離さずに因果関係を見る
  • モノを重視しても人間の責任は消えない

アッサンブラージュで関係の束を読む

新しい物質主義では、現実は単独の原因ではなく、複数要素の一時的な結び付きとして捉えます。これがアッサンブラージュです。利用者、端末、アプリ、電力、通信網、規約、鉱物資源が結び付いて、スマートフォンの利用体験が成立します。

アクターネットワーク理論も、こうした関係を追う有効な道具です。人間と非人間を最初から上下に並べず、誰が何を媒介し、どこで行為が変形するかを観察します。目的や意味だけでなく、配線、画面、規格、故障も分析対象になります。

たとえば電柱は都市の背景ではありません。高さは10〜16m・太さは1.7〜2.5m・下より上が細い・中は空洞という構造が、配線と保守の条件をつくります。電柱同士の距離は30−50m程度で反復され、都市の視界と通信の可能性を組織しています。

  • 関係の単位を「人」だけでなく接続の束として捉える
  • インフラの寸法や規格も社会的な結果に関わる
  • 見えない媒介物を追うと問題の所在が具体化する

旧来の唯物論と何が異なるのか

新しい物質主義は、物質がすべてを一方的に決める技術決定論ではありません。社会的意味だけが物質を決める社会決定論でもなく、物質と意味が相互に形づくられる過程を問います。この立場が、単純な物質主義 批判を乗り越える鍵になります。

旧来の唯物論は、経済や生産条件の重要性を示しました。その遺産は大切です。ただし新しい物質主義は、言語化されにくい摩擦、毒性、重さ、劣化、気候といった物質性も、歴史と政治を変える要素として詳しく扱います。

本質主義は物の固定的な性質を強調し、構築主義は社会的な意味づけを強調します。新しい物質主義は両者を二者択一にせず、素材の性質がありながら、使われ方や制度との関係で異なる現実が生まれると考えます。

  • 技術決定論とも社会決定論とも異なる立場
  • 素材の性質と社会的意味の両方を扱う
  • 物質主義 批判を単なる反物質主義にしない

物質存在論から物質と精神を考える

物質存在論は何を問う学問か

物質存在論は、何が存在するのか、物質とは何か、心や情報は物質とどう関わるのかを問う哲学です。机のような物体だけでなく、場、エネルギー、出来事、生命、社会制度を何として扱うかが、議論の中心になります。

物質存在論は唯物論と完全に同義ではありません。唯物論は実在の基礎を物質に置く立場であり、物理主義は現代科学の物理的記述との整合性を重視します。一方で存在論は、抽象的対象や時間、関係まで含めて存在の条件を検討します。

宇宙論は、物質を日常の固体だけに狭められないことも示します。通常の物質は less than 5% of the universe’s energy density とされ、物質・エネルギー・場をどう区別するかは、哲学だけで完結しない問題です。

  • 物質存在論は存在の範囲と条件を問う
  • 唯物論、物理主義、存在論には重なりと違いがある
  • 科学的知見を哲学的結論へ短絡させない

物質と精神は対立するだけではない

物質と精神の関係は、身体を単なる精神の容器とみなすだけでは理解できません。疲労、温度、道具の重さ、画面の明るさは、注意や感情、判断の条件を変えます。精神は身体と環境から独立して働くわけではないのです。

1748年、フランスの医師であり哲学者であったラ・メトリは、『人間 機械』(L’Homme Machine)の中で、人間の魂の唯物論的定義を唱えた。この議論は心を物質へ還元する問題を鮮明にしましたが、現代では関係や身体性も含めた検討が必要です。

物質と精神を結び付けることは、心の経験を化学反応だけに還元することではありません。むしろ、身体、言語、記憶、他者、人工物が相互に働く条件を記述することです。新しい物質主義は、この複雑な相互作用を丁寧に追います。

  • 精神活動には身体と環境の条件がある
  • 還元主義と二元論のどちらにも留まらない
  • 経験を支える素材的条件を可視化する

研究資料を読むときの注意点

物質存在論の文献を読む際の答えは、書誌情報と主張を分けて確認することです。研究課題には 2024-04-23–2026-03-31 の期間が示され、公開日:2024-04-24 更新日:2025-12-26 と記録されるものがあります。更新日が主張の成立時点とは限りません。

また、Published 1998-05-22 と記載された資料と、現在の科学理論を同じ重みで扱うことはできません。Technical report of IEICE. Thought and language 98 (72), 19-26, 1998-05-22 のように、媒体、巻号、頁、公開時点を確認して位置づけます。

哲学では古い文献も重要ですが、実証的な根拠は別途検討します。物質存在論の魅力は、科学を権威として引用することではなく、科学的実在論が何を言えて何を言えないかを、存在論と認識論の両面から吟味する点にあります。

  • 公開日・更新日・刊行日を区別する
  • 哲学史上の価値と実証的妥当性を混同しない
  • 科学の記述から導ける結論の範囲を確認する

素材の存在論はデザインをどう変えるか

素材・物質・物体を区別する

素材の存在論は、素材を完成品の背景ではなく、形・機能・使用感を生み出す過程的な存在として考えます。物質が化学的・物理的な基盤を指すなら、素材は加工、流通、技法、用途との関係のなかで意味と働きを得ます。

物体は、素材が一定の形に組織されたものです。同じ綿でも、糸の撚り、編み方、染色、縫製が変われば、衣服としての伸び、耐久性、肌触り、修理可能性が変わります。素材の存在論は、この変化を単なる仕様差として片付けません。

素材論と素材哲学は、素材を受動的な原料とみなさない点で交差します。設計者が素材を選ぶ一方で、素材の厚み、反発、経年変化もデザインを選び返します。制作は命令の実行ではなく、抵抗と応答を含む共同の過程です。

  • 物質は基盤、素材は加工と用途の関係を含む
  • 物体は素材が組織された一つの形態
  • 素材の性質は設計判断を押し返す

素材と身体性は使用後に分かる

素材と身体性を考える答えは、試着や使用の時間を設計に含めることです。カタログ上の伸縮率だけでは、肩の可動域、汗の不快感、座ったときの圧迫、洗濯後の型崩れまでは判断できません。身体は素材性能を検証する場になります。

junhashimotoのSERIBUシリーズでは、背中に一本のリブを配し、胸回りで生じる伸びを受け止めながら背面の見え方を整える設計が採られています。専門施設で100回洗った見本を確認した素材という実例は、耐久性を使用経験で確かめる姿勢を示します。

この例は素材の存在論の実践です。品質を繊維組成や規格だけで語らず、洗濯、着用、身体の動き、見た目の変化まで含めて評価します。素材と身体性を扱うなら、購入時の印象と数年後の状態を同じ判断軸に置く必要があります。

  • 身体は素材の性能を受け取るだけでなく検証する
  • 仕様値と長期使用の実感を併せて見る
  • 洗濯や修理まで含めて品質を評価する

デジタルにも素材はある

素材の存在論が示す答えは、デジタルデータも非物質的ではないということです。写真、音楽、生成AIの出力は画面に現れますが、サーバー、半導体、冷却設備、電力、海底ケーブル、採掘資源という物質的な基盤なしには存在できません。

iPhone 6・16 GB モデルは129 gでも、その利用を支える資源と製造、輸送、廃棄を含めれば推計34 kgという見方があります。軽い端末の便利さは、重量が消えたのではなく、供給網の各所へ分散したことを示します。

素材の存在論に関する資料には公開日: 2012-11-07 と記録された論考もあります。公開時点を確認しつつ、現在のデジタル環境へ読み替える際には、情報的同一性だけでなく、保存媒体、電力、保守労働という物質的同一性も検討しましょう。

  • データには保存・演算・通信の物理的条件がある
  • 端末の軽さと供給網全体の負荷を区別する
  • デジタルの同一性を情報だけで判断しない

人工物哲学と技術の実在を読み解く

人工物哲学は道具の働きを問う

人工物哲学は、人工物を人間の目的を運ぶだけの容器ではなく、行為を可能にし制限する存在として検討します。ドアノブ、改札機、衣服のジップ、スマートフォンの通知は、身体の動線、習慣、注意の配分を具体的に組み替えます。

人工物の意味は設計意図だけで決まりません。利用者の工夫、故障、修理、制度、他の道具との接続によって、同じ製品でも異なる役割を得ます。人工物哲学では、完成時の機能だけでなく、使用・改造・廃棄までを対象に含めます。

たとえば通信線の場合、地上から最低でも2.5m以上の位置に配置される。この寸法は安全や保守を支えると同時に、誰がどの設備へ近づけるかを決めます。人工物は中立な物ではなく、規格を通じて社会的な行為の範囲を形づくります。

  • 人工物は行為の選択肢を増減させる
  • 設計意図と実際の使用は一致しない
  • 規格や寸法は社会の振る舞いに関わる

技術と実在論を対立させない

技術と実在論を考える答えは、技術を幻想でも絶対的な支配者でもない実在的な媒介として扱うことです。アルゴリズムやアプリは抽象的に見えても、半導体、電力、規格、労働、設備に支えられ、具体的な効果を生みます。

フリードリヒ・キットラーやユッシ・パリッカにつながるメディア物質主義は、メディアの内容だけでなく、記録装置、処理能力、廃棄物、地質的資源に目を向けます。これは技術を語る際に、画面上の情報だけを現実としないための視点です。

技術と実在論は、技術が世界を完全に決定するという主張ではありません。利用者、企業、行政、環境条件との関係で技術の働きは変わります。それでも技術には抵抗や制約があり、望む物語だけで自由に書き換えられない実在性があります。

  • 技術は物理基盤をもつ現実的な媒介である
  • メディアの内容と装置の両方を分析する
  • 技術決定論を避けつつ物質的制約を認める

素材選択を設計判断へ翻訳する

素材を活かす設計の答えは、性能表をそのまま製品価値にしないことです。伸びる生地、厚い革、金属ジップにはそれぞれの抵抗と表情があり、パターン、縫製、色、着用場面との組み合わせで初めて意味が生まれます。

日本製ウォッシャブルレザーでは、厚めの牛皮に特殊なオイルを塗り、手仕上げでシワの表情を整える方法が採られています。水に弱いとされてきたレザーの前提を見直しつつ、洗えることだけでなく、使用後の表情を価値に変える発想です。

一方で高機能ポリエステルは、接触冷感、吸水速乾、抗菌防臭といった性能を持ちます。しかし素材論の観点では、機能を増やすだけでは不十分です。肌触り、洗濯耐性、修理のしやすさ、廃棄時の影響まで、設計段階で問い直す必要があります。

  • 素材の性能はパターンや用途との関係で価値になる
  • 加工は素材の表情と使い方を変える
  • 機能性と長期的な影響を同時に設計する

素材倫理と環境倫理を選択へつなげる

素材倫理は誰の負担を見るのか

素材倫理の答えは、素材の性能や価格だけでなく、その素材が誰にどの負担を配るかを問うことです。採掘地の労働、工場の安全、輸送、修理の可否、廃棄物処理までを追うと、便利さの代価が見えやすくなります。

スマートフォンに使われる資源をめぐっては、推計34 kgという物質的な足跡を意識する必要があります。端末を大切に使うことは重要ですが、個人の節約だけでは解決しません。長期利用を妨げる設計や、回収しにくい制度も倫理の対象です。

素材倫理は、素材に責任を負わせる考え方ではありません。素材の毒性や希少性、劣化の仕方を理解したうえで、企業と設計者が説明責任を負い、利用者と制度が選択肢を広げるための考え方です。

  • 素材の価値を価格と性能だけで測らない
  • 供給網の労働・安全・修理・廃棄を確認する
  • 責任の主体は人間と組織にある

素材と環境倫理は循環全体で判断する

素材と環境倫理では、環境負荷を購入時の印象だけで決めません。採掘、精製、製造、輸送、使用中の電力、修理、再利用、廃棄までを一続きで見ます。再生可能と書かれた素材でも、回収制度がなければ循環は成立しにくいからです。

電子廃棄物は、2019 年には5360 万トンとされ、2030 年には7400 万トンが見込まれています。さらに2020 年の報告では、過去5 年間で21 % 増加していました。機器の更新を便利さだけで評価すると、廃棄段階の負担を見落とします。

一人当たりの電子廃棄物は、ヨーロッパで16 . 2 kg、オセアニアの16 . 1 kg、南北アメリカの13 . 3 kg、アジアは5 . 6 kg、アフリカは2 . 5 kgです。地域差は、消費と処理の負担が同じ場所に分布していない可能性を示します。

  • 環境負荷はライフサイクル全体で見る
  • 更新頻度と回収可能性を同時に考える
  • 地域間の消費・廃棄負担の偏りを問う

明日から使える観察と選択の手順

実践の答えは、身近な一品を「採掘から廃棄まで」追うことです。まず素材名と加工を調べ、次に身体への作用、修理の可否、洗濯や電力など使用中の負担、最後に回収先を確認します。これだけで新しい物質主義は抽象論ではなくなります。

衣服なら、長く着たときに型を保つか、直せるか、手入れを続けられるかを確かめます。電子機器なら、電池交換、OS更新、部品供給、回収制度を確認します。素材と身体性、人工物哲学、素材と環境倫理を、一つの選択へ接続する方法です。

判断を急ぐ必要はありません。買わない、修理する、借りる、長く使う、回収へ出すという選択もあります。新しい物質主義は正解を一つに固定する思想ではなく、人間とモノの関係が生む影響を、より具体的に引き受けるための視点です。

  • 素材名・加工・使用感・修理・回収を順に確認する
  • 購入以外の選択肢も物質的な行為である
  • 身近な製品から関係の網目を観察する

まとめ

新しい物質主義は、モノを人間の意図に従うだけの背景から解放し、身体、技術、制度、環境とともに現実を形づくる存在として捉えます。物質存在論、素材の存在論、人工物哲学をつなぐことで、製品選びや技術利用に潜む責任と可能性を具体的に考えられます。

要点

  • モノのエージェンシーは意思ではなく、行為や結果を変える作用である
  • 物質と精神は身体・環境・道具を介して相互に関わる
  • 素材倫理は採掘から修理、廃棄までの負担の分配を問う
  • デジタル技術も資源・電力・労働に支えられた物質的な存在である
  • まずは一つの衣服や端末の来歴を追うことから始められる

次に服や端末を手に取るときは、素材名だけで終わらせず、「どこから来て、身体にどう働き、どこへ行くのか」を問いかけてみてください。その小さな観察が、モノとの関係を変える確かな実践になります。

よくある質問

Q1. 新しい物質主義を一言でいうと何ですか?

人間だけでなく、素材、道具、技術、環境も現実の形成に作用すると考える思想です。モノに人格を与えるのではなく、関係のなかで生じる作用を観察します。

Q2. 新しい物質主義は唯物論と同じですか?

同じではありません。唯物論の問題意識を受け継ぎながら、物質を固定的な基盤としてだけでなく、身体、言語、技術、環境との関係で変化する存在として捉えます。

Q3. 素材の存在論はデザインにどう役立ちますか?

素材を仕様表の項目ではなく、形、使用感、耐久性、修理、廃棄まで左右する参加者として扱えます。試作と長期使用の観察を設計判断に組み込める点が実践的です。

Q4. モノにエージェンシーがあるなら、人間は責任を負わなくてよいのですか?

いいえ。モノの作用を認めるほど、設計者、企業、行政、利用者がどの条件をつくったのかを具体的に問えます。責任を消すのではなく、責任の所在をより丁寧に追跡する考え方です。

Q5. さらに学ぶための信頼できる資料はありますか?

Stanford Encyclopedia of Philosophyの「Materialism」、Internet Encyclopedia of Philosophyの「Philosophy of Technology」、国際連合訓練調査研究所の電子廃棄物資料、環境省の循環型社会関連資料を参照すると、哲学と環境課題を行き来しながら理解を深められます。URL: https://plato.stanford.edu/entries/materialism/ 、https://iep.utm.edu/technolo/ 、https://unitar.org/ 、https://www.env.go.jp/